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慶應義塾大学医学部 内科学教室 腎臓内分泌代謝内科

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1型糖尿病臨床の魅力

目黒周

いわゆる生活習慣病ではない糖尿病である1型糖尿病の存在は皆さんもよくご存じのことと思います。多くは自己免疫のメカニズムにより発症するものと考えられており、日本では糖尿病の患者さんの約10%が1型糖尿病です。糖尿病診療の中で数としてはminorityとなりますし(とはいっても推定約100万人程度はおられる計算になりますが)、インスリンが発見される以前には致命的であった1型糖尿病も治療が可能になってから約100年が経過し、もうほとんど解決してしまった病気だと考えていませんか?

残念ながらそうではありません。体内から枯渇してしまったインスリンをそれぞれの方の生活に応じて補充するということは実は簡単なことではありません。生活の中でダイナミックに変化するインスリンの必要量に対して、補充量が十分でなければ高血糖に、補充量が過剰となれば低血糖になる、という状況の中で患者さんは生活をされています。これから食べる食事量が多ければ、これから必要なインスリンの量は多くなりますし、これから運動をするときには、これから必要なインスリン量はいつもよりも減少するでしょう。

このようにインスリンの必要量がこれからどのように変動するかを常に予測しながらインスリン量を補充していく、ということはカオス理論的な現象であり、これが至難の業なのです。1型糖尿病の臨床においては、インスリンの投与法、量を生活の場において調整するお手伝いをすることは非常に大きなウェイトを占めています。インスリン治療は生理的な糖代謝とホルモン分泌、病態の理解、使用する薬剤の作用に関する深い知識、豊富な臨床経験、およびそれぞれの患者さんの生活への洞察を抜きにしては可能とはなりません。

医師や看護師が薬剤の使い方を説明したところで1型糖尿病の治療は完結したことにはなりません。患者さんがそれを生活の場で応用できるように習熟し、よい血糖管理を維持できなければさまざまな合併症が出現してきます。ようやく日本での1型糖尿病の予後も欧米並みになってきましたが、若い時に発症し、しかもコントロールが難しい1型糖尿病では、いわゆる糖尿病の慢性合併症に対する注意が非常に重要です。また、こうしたプレッシャーの中で生活をしなければならない患者さんの精神的な負担は大変に大きなものがあります。これは全ての糖尿病に言えることではありますが、出生直後から高齢となるまで、あらゆる年代で発症する可能性のある1型糖尿病ではそれぞれの方のライフステージに応じて求められる対応法が異なってきます。学校、会社、妊娠、出産、介護など全ての社会生活が病気によって修飾されます。残念ながら「差別」や「偏見」としか言いようのない事態に直面されることもあります。中には病気や病気に伴う様々な苦労に押しつぶされそうになっている患者さんもいらっしゃいます。患者さんを中心とした医療チームを立ち上げて、リーダーシップを発揮していくことは糖尿病専門医に課せられた責務です。医療者にできることには限りもありますが、患者さんのこうした苦しみを克服していく手助けをチームとして行っていくことも、1型糖尿病臨床を行う際の喜びのひとつです。

インスリン製剤そのものは超速効型や持効型といったアナログインスリンの開発により、より生活に対応した調整が行いやすくなっています。インスリンの注射器や針も以前と比べるとずいぶん扱いやすくなりました。持続インスリン皮下注入法も機械の性能の向上や、持続血糖モニタリングといった新しいテクノロジーのサポートで、より高度で安全な治療の可能性がみえつつあります。膵臓移植、膵島移植といった1型糖尿病への根本的な治療法は移植技術やiPS細胞などの再生治療の進歩とともに今後さらに進歩してくるでしょう。発症リスクの高い方への発症予防の試みや、発症直後の患者さんへの新しい治療なども模索されています。「難しく面倒な」インスリン治療を新しいテクノロジーの開発・研究によりより「簡単で安全な」治療法に向上させていくことは非常にチャレンジングな分野です。しかし、おそらく新しいテクノロジーから得られるメリットを患者さんとの対話の中で患者さん自身に還元していくことの重要性は今後も変わらないのではないでしょうか。

現時点では、糖尿病診療は完全にマニュアル化したり、クリニカルパスで運用したりすることが難しく、患者さんに強いる負担も大きく、残念ながら未だ不十分なところが多々あると言わざるを得ません。しかし、だからこそinnovationが求められており、challengeの余地がある分野です。また、経験を積むことによって自分の診療の内容を年々歳々より深めていくことが可能です。皆さんの若い創造性で糖尿病診療を変えてみませんか。一緒にチャレンジしたいという方を求めています。


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